「かくれんぼの達人」

 昔から使い回されているネタとして延々と隠れ続ける「かくれんぼの達人」というのがある。
 バリエーションとしてホラー系になったりもするが、それはこの際は置いておく。
 要は「容赦のない」「空気の読めない」「ルールの行間の読めない」人を極端な事例を持って笑うという構造の話だ。

 ====

 さて、かつて僕は長く泳ぐことに関しては才能があったように思う。かつてと言っても小学生の4年生ぐらいの話だが。

 当時からほどよく太っていた僕は浮くことに関しては何ら苦労が無く、小学校に上がる前に水泳教室に通っていたこともあって泳ぎ自体に苦労した思い出はなかった。ただ、上手に泳いでいたかと言えば大人になってから会員制のプールに通うようになって始めてまともなクロールの泳ぎ方について開眼したぐらいなので当時は更に不格好かつ非能率的な泳ぎ方をしていたはずだ。
 それでも速く泳ごうとさえしなければ感覚としてはいつまででも泳いでいられるような気がしていた。疲れて泳ぎ止めたことはなく、飽きてそろそろ止めようと思って止めていたのが常だった。

 その年、なぜだか良く覚えていないがその年だけ近隣の小学生を集めた夏休みの水泳教室のような物が開かれ、僕はその夏始めて行った少し遠い学校で泳いでいた。

 最後の日、遠泳のテストのようなものがあった。僕は始めて自分の限界を試すことが出来ると、少々ワクワクしながら泳ぎ始めた。

 しかし、結局僕は自分の限界を試すことが出来なかった。800mを超えた当たりからいつまでたっても止まろうとしない僕に周辺がざわざわとし始め、その異変を何か別の異常事態だと思った僕は止まってしまったのだ。


 その時、幼いながらも僕は自分が何か飛び抜けて偉大なこと、延々と続けられるかくれんぼのような、は絶対に出来ない人間だと気付いたのだった。