今更だけど、「巧まざるネカマ」になっちゃったかもしれない話

例の異世界には今のところ分身が6つほどいて、メインで使っているのは女性キャラである。

この異世界の男女比は恐らくプレーヤーとキャラクターの男女比が逆転しているのではないだろうかと思うぐらい女性キャラが多い。これはこの手の異世界では別段特異なことでもないようで、まあ、わざわざ厳つい男の顔を見続けることもないのでその気持ちは分かるというか自分もそう言う心境で姉ちゃんキャラを作ったわけだ。
ただ、実のところ一人目に作ったのは正に厳つい兄ちゃんで、キャラクターとしてエルフを選択できるようになった時点でセカンドキャラとして作ったのだが、何となくこちらの方が気合いが入るというかやる気が出るようになって^^;自然に姉ちゃんの方がメインとなってしまったというのは言い訳になるのだろうかウジャウジャ。


ギルドに入った時はこの姉ちゃんキャラがスカウトされたのだが、後に諸々の都合上最初に作った兄ちゃんもサブキャラという位置づけで参加しているので恐らくギルド内で僕を女性と勘違い、若しくはネカマをしていやがると思っている人はいないと思う。

が、チャット上の一人称は「私」になっており、略語が多用される中、丁寧な言葉遣いを心がけていることもあってチャットだけ見ていれば中性的、若しくは女性的な印象を持つ人もいるかもしれない。まあ、明確に女性を演じているわけでもないし、性別以外の属性である職業、年齢等も開示されているわけではないので性別についても相手が受け取るがままにすれば良いというスタンスだ。


ただ接触の機会の多いギルドメンバーは最初誤解していても自然と本性を察知していくだろう。たまに会う人とたまたまそう言うシチュエーションを演じてしまうとやっかいなことも起こりうる。


たまたまクエストの中でパーティメンバーに女性キャラが必要なものがあったのだが、そこで行き詰まっていたある人がたまたま目についた僕にチャットを入れてきたのだ。クエスト自体はすぐに終わるものだったので、ちゃっと協力してちゃっと別れたのだが、当時の僕はギルド以外の繋がりを形成していく必要性を感じていた。ちょっとした頼み事でもギルドで話をすると話が大げさになってしまうので、ちょこっと頼み事が出来る個人的なコネクションは便利だなと思っていたのだ。単純に今回貸したんだからいつか返してねという意味も含めて別れた後で「これからも仲良くやりましょう」と入れて繋ぎをつけておいたわけだ。

その時点でキャラ的には僕の方が2日分ぐらい先行しており、いわば「お姉さん」的な立場だった。

その後、一日ぐらいおいてまたもや向こうから「助けて欲しい」的なチャットが入り、僕が3日ぐらいかけて完了した面倒くさいだけのクエストを1時間ほど付き合って完了。まあ、こちらが壁兼回復役で向こうが火力職だったので効率的に向こうが圧倒的に有利だったことはあるが、一応こちらもそれなりの試行錯誤の結果を残しているので色々とアドバイスしつつ「これで貸し2だ」と心の中で思いつつ、「また何かあったら助け合いましょう」的なことを言って別れた。


問題はその後、翌々日ぐらいに連絡があったときだ。青年誌の裏面広告の「こんな貧弱な僕でもこんなになりました」的な商品でも使ったンかという風に彼は変わっていた。レベル上でも2つぐらい差をつけられ、更に装備を強化してきやがった。このゲームは少々取っつきにくいが奥の深いキャラの強化方法が複数ルート存在するのだが、彼の使った手は最も初歩的であり、最も効果的と言われるもので、ただ上手に説明してもらわないと理解できない人には一生理解できない類のものだった。

僕もギルドマスターの説明を受けてそのぐらいやっておいた方がよいのかなと思いつつ、面倒だなと思っていたところだったのでその時点でしてやられたという感じだったのだが、先方はレベルを上げてきたと言うことは必定クエストに関してもこちらを抜き去ったということで、これまでの一線を引いた口調から急にデート中の男のような俺が引っ張ってやるぜ的な態度で僕を前回ギルドメンバーと入り込んで自分だけ迷子になって死んでそのまま誰にも気付かれないようにパーティを抜けた例のトラウマの地に誘ってきやがった。

まあ、なんというか、今まで借りてばかりの女性キャラに対して良い格好をしたいと思って寝食を惜しんで強化に励んだのだろうことは微笑ましいといえば微笑ましいのだが、僕はただでさえ無計画に作った適当キャラで自分のペースで遊んでいるのであのトラウマの地に足を踏み入れるのは少なくとも一週間以上は先だと思って準備もしていない。

で、「壁」がこんなんで本当に行けるのかよと思いつつ、付き合って入ってみたら案の定門番の時点でまず一回全滅。再挑戦では慎重に門番を避けてこそ泥のように進むがあまり本筋っぽくないところでまた雑魚に取り囲まれて全滅。なんだか良く分からないうちにその地に関するクエストは3つほどクリアしていたが、なんともコストパフォーマンスの悪い結果に終わった。

全く余裕がなかったのでギルドのチャットをフォローできなかったのも痛かった。なにより、自分が長距離攻撃の手段を持っていないので、相手の気分の赴くままの攻撃に息が合わずにただ走り回っている内に一発も当たらずに殲滅か、彼の能力を超えた敵に対してはそれなりの生存能力の高さを活かして生き残りを図るが攻撃面で手詰まりになって結局逃げ回ったあげく背中からばっさり。当然僕が切られる頃には彼はいつの間にかその辺に転がっている始末。


で、そう言う愚痴が言いたかったのかと言えばそれもあるのだけど、実はこの体験は先の春に自分が体験したことの鏡返しのようなものだったなぁと思ったりしたのでその辺を分析してみたかったのだ。

男女、というか個人差もあり、単純に僕が先の春頃に付き合いかけていた「彼女候補」の心境をロールプレイをすることで完全に把握できたとは思えないが、それでもある程度は感情的な動きを想像する切っ掛けにはなったと思う。

あの春起こったことと今回の件の類似点を箇条書きすると、

  1. 元々の心理上のスタート地点が違った。
  2. 初めて弱みを見せる女性。
  3. たいして上手に対処できていないのに何故か急にマッチョになる男性。
  4. 心理上の差は開くばかり。

といったところか。

もうだいぶ細部の記憶は薄れてきているのでそもそも自分の前提があてになるか判らないが、今あの時の彼女の気持ちに自分の経験を当てはめてみると、実に腹立たしく感じる。

当時は彼女が彼女自身のことを申し訳なく思ったとか、仕事とのバランスに危惧を抱いたとか尤もらしいことを色々と並べてみていたが、実のところただ単に腹を立てていただけなのではないか。相手の元気がなくなると急に反転して元気になったり、自分のことで手一杯なのに急にここぞとばかり弱みにつけ込むようにエモーショナルなことを言い始めれば、それは腹が立つだろう。

そろそろ恋愛体験に関して思い返して身悶えすることが許される歳ではなくなってきているのだけど、結局冷静に思い返すと身悶えする羽目になるなと、他人の振りを見て思ったという、そういう話。