米国の労働市場の変化を、1995年から97年までゴア副大統領の主席スピーチライターを務めたダニエル・ピンク氏が2001年に上梓した、『Free Agent Nation』(邦訳『フリーエージェント社会の到来』)に従って述べる。
 このフリーエージェントという言葉は、米国の代理法の考え方を反映している。サラリーマンは、会社のために行動する会社の代理人、つまりエージェントである。一方、フリーエージェントとは、会社の代理人ではなく、自由に行動する、組織から独立した個人事業家を意味する。
〜中略〜

 雇用の対象は、オーガニゼーションマンからフリーエージェントへと変わり始めた。組織ではなく、個人が再び経済の基本単位となりつつある。キャリアを徐々に積み重ねていくフリーエージェントは、ソフトウェア開発などに特に数多く見られる。
 フリーエージェントとは、ベンチャー企業のオーナーとは異なり、ITの進歩、大企業のリストラという状況下で、事業を小規模のままに保って仕事と家庭の境界線を曖昧にする、組織人ではなく独立自営業者として自由に生きる人である。

 フリーエージェントには三種類ある。

  1. 特定の組織に属さず、様々な組織を渡り歩いて自分のサービスを売るフリーランスといわれる人。インディペンデント・コントラクターとも呼ばれる。経営コンサルタント、トラック運転手、グラフィック・デザイナー、コンピュータ・プログラマーなどで、米国では1650万人ほどいると推定されている。
  2. 臨時社員(含む派遣社員)。350万人(米国、以下同様)。
  3. ミニ企業家。従業員20人未満の企業における1994〜98年の新規雇用は900万人だった。この数は、この間の米国での雇用増加数の八割に相当する。現在の米国では、全企業の半数以上が従業員5人未満の会社である。デジタルネットワークの進歩により、個人や少人数のグループでも生産性、情報収集の面で大企業に対抗できるようになったことが背景にある。ミニ企業家の人口は1300万人。

 合計するとフリーエージェントは3300万人、米国の労働者の4人に1人はフリーエージェントということになる。今後も、フリーエージェントは増えつづけるだろう。
(参照:「ベビーブーマーリタイアメント 少子高齢化社会の政策対応」野村総合研究所 中村実 安田純子 p287-289)