〜前略
 欧州の地域統合EUを中心とする超国家的枠組みのもとで、北米はNAFTAの制度的枠組みのもとで発展してきた。一方、東アジアはこれまで市場を中心に実質的な経済統合が進んできたが、更なる発展にはこの「実質的な統合」を補完し、深めるための東アジア大の制度構築が不可欠な段階に達している。
 この東アジア大の制度的枠組みの構築において、EUNAFTAをまねることはできない。東アジアは両地域よりもはるかに多様性に富んでいる。一人当たり名目GDPの国別格差をみると、EUNAFTAの域内では10倍以内なのに対し、カンボジアと日本の間にはほぼ100倍の格差がある。政治体制や文化、宗教、民族、言語も多様である。この多様性の中で統合を深めていくためには、独自の制度構築を進める必要がある。
 東アジアの多様性は地域統合のうえで障害となりうるが、長期的にはむしろ大きな資産になる。例えば、域内の賃金格差は、補完性に基づく分業生産システムの構築には有利である。さらに、民族・文化の違いは、今世紀の発展のカギとなる知識創造において、多様な人間がコミュニケーションを通じて新しいものを生む可能性につながる。
後略〜
(参照元:日本経済新聞 05/1/28 29面 「経済教室 空間経済学から見た東アジア統合 多様性の潜在力生かせ 独自の制度構築を 開かれた共同体形成へ」京都大学教授 藤田昌久)