振られた?

天気の神様には微笑んでもらえた。
デートプランもスケジュールを詰めすぎていたわりにはほぼ上手くいった。
岐阜大仏は結構受けた。
護国神社の江戸彼岸桜は見事だった。
一番大きなリスクだった劇も前半内輪受けに走り上滑りするギャグ構成にハラハラするも後半で盛り返し、僕はラストに涙した。彼女は隣の人の人間観察に夢中だったようだけど、それでも楽しんでもらえたみたいだった。
夕食は例の馴染みの店。ついいつものペースで飲んでしまいそうになるところを緊張感を持続して平静を保つ。それでも焼酎ロックで6杯飲んだけど。
最後には駅前の46階建てのビルで夜景。見事なものだった。ラウンジでは結婚式の二次会をやっている。
そこで僕はたぶんこういう言い方をしたんだと思う。
「ここまで2ヶ月間、まだお互いのことを知るのに十分な時間が経ったとは言えないかもしれないけど、僕には○○さんが僕にはもったいない素晴らしい人だと思えます。正式にお付き合いをしてもらえたらうれしい」
なんだか色々考えていたことが吹っ飛んでしまっていて「もったいない」とか絶対に言わないと誓っていた言葉を使ったりしてしまったが、それでもまあ、とちらずに言い切ったと思う。
そして彼女は困ったような顔をして黙り込んだ。
十秒ほどが経過し、耐えきれなくなった僕が
「今結論が出ないなら、保留にしてもらっても」
と言った。暗がりの中、彼女の表情は読み取れなかったけど、彼女は僕の言葉に頷いた。
帰りの電車の中、なんとか次の約束を取り付けようとしたけど、4月は忙しいからその次は判らないと言われた。実際の処、僕も異動後のことなんか判るわけもなく、せめて食事だけでも時間がとれれば呼び出してください、と言うのが精一杯だった。
電車内での会話は今までと大して変わらずに進んでいたように思う。ただ最後、電車を降りた彼女は挨拶もそこそこに一度だけ振り返りちょっと悲しげな表情を見せた。

結果的に3枚の二人の写った写真が僕の手元に残った。

彼女の性格から本当に僕のことが嫌だったらスッパリあのとき振っていてとは思うし、感触としては確かに頼りないところは各所で見せてしまったかもしれないけど、総体として今日だけ見れば満足してもらえたと思う。

それでも、可能性としては僕があのとき、保留というのが一瞬遅かったら、彼女は言いにくい言葉を何とか構成して言い切っていたのかもしれない。

いつもなら彼女の方から僕が家に着く前にたどり着いていたメールは届かず、僕の出したメールに対する返信にはただ、「ありがとうございます、今日は明日に備えて寝ます」という内容だけだった。ひどく疲労しているか、混乱しているか、恐らくはその両方が伝わってくる内容だった。

早かったのだろうか。時期的な問題ではなく、何かが僕には足りなかったのだろうか。やってはいけないことをしてしまっていたのだろうか。今は判らない。

たぶん今日からも何事もなかったかのように僕は彼女に時節の挨拶のようなメールを出し続けるだろう。彼女は果たして返してくれるのだろうか。