世界政治では評判はこれまでつねに重要だったが、いまでは「豊富さの逆説」のために信頼性が力の源泉として一層重要になっている。情報を提供しても、宣伝にすぎないと思われれば相手にされないだけでなく、それによって自国の信頼性に間する評判が悪化すれば、逆効果にすらなりかねない。イラクフセイン政権の大量破壊兵器アル・カイダとのつながりに関する誇張した主張は、アメリカ国内でイラク戦争に対する支持率を高める点では役に立ったかもしれないが、その後に誇張していた事実があきらかになって、アメリカとイギリスの信頼性に大きな傷がついた。さまざまな国の政府や組織がニュース提供で競い合う情報時代の状況では、強引な売り込みよりも控えめな売り込みの方が効果的になっていくともみられる。
(参照元:『ソフト・パワー 21世紀国際政治を制する見えざる力』 ジョセフ・S・ナイ 山岡洋一日本経済新聞社 p.168)