〜前略
 市場主義改革は必要ではあるが、それだけで十分なわけではない。さてそれでは、必要にして十分な改革とは何なのか。この設問への筆者の答えは、市場主義改革と「第三の道(市場万能でも社会主義でもない)」改革の同時平行的な遂行である。
 「第三の道」改革とは、平等な福祉社会をつくることである。これを見て読者は、何と古臭いことをとあきれるだろう。あわてて付け足さねばならないのは、平等と言う言葉、福祉と言う言葉を再定義した上で、平等な福祉社会を目指すという点である。
 平等な社会とは「排除」されるもののいない社会のことを言う。働く意欲を持ちながら働く場から排除される失業者の多い国は不平等な社会である。数千万人もの米国人が医療保険に未加入だということは、それほど多くの人が医療サービスから排除されているという意味で、米国は不平等な社会だということになる。
 これまでの福祉は高齢者、失業者、極貧者らに生活費を支給するものだった。その意味で、こうした福祉はネガティブ福祉とも呼ばれる。これからの福祉は、自分という人的資本に投資(たとえば転職のために大学に学士入学)する人を支援する、というポジティブな役割をも担わなければならない。
 「第三の道」改革とは、排除されるもののいない、ポジティブ福祉社会も目指すことである。
 後略〜
(参照元:日本経済新聞 2005/1/25 29面「やさしい経済学-21世紀と資本主義 市場経済第三の道 7排除のない社会」京都大学教授 佐和隆光)