〜前略
 ポスト工業化社会とは何かを次の2点に要約することができる。第一に、製造業が情報技術(IT)を取り入れて、生産・経営プロセスを抜本的に改編して見事によみがえることで、第二は、ソフトウェア産業(金融、通信、情報、娯楽、コンサルタント、法務、医療サービスなど)が経済の中枢部を占めるようになることである。
〜中略〜
 ポスト工業化社会への移行は、いずれの先進国にとっても欠かせない。とはいえこの社会は、1,個人間、国家間の所得格差が拡大する 2.リスクと不確実性が拡大する 3.自由競争の結果が、「一人勝ち」に終わる公算が大きくなる 4.企業会計の不正が横行する--といった矛盾と歪みをはらんでいる。1. を別にすれば、市場主義の立場に立つ人ですら、まゆをひそめる「歪み」である。2. は企業、個人の予見可能性を狭める。3. は市場経済の効率性を損なう。4. はあってはならないことである。
〜中略〜
 ポスト工業化社会は、効率性など既成経済学の設ける「仮説」の多くを満たさない。それゆえに経済学の革新が求められている。政治や法と経済のかかわりを抜きに前述のような難題に対処することもできない。さらに議論を深めて新しい政治経済学を確立するときである。
後略〜
(参照元:日本経済新聞 05/1/26 27面 「やさしい経済学-21世紀と資本主義 市場経済第三の道 8 ポスト工業化」京都大学教授 佐和隆光)