〜前略
 知識創造企業においてはその企業固有の実践と対話の「型」が重要となる。型とは、当該領域での達人たちや優れた組織が理想とする行動プログラムの本質を凝縮したものである。つまり型とは、状況の文脈を読み、統合し、判断し、行動につなげるために、個人や組織が持っている思考・行動様式のエッセンスであり、思考・行動における総合の形態なのである。
 「守・破・離」(教えを守った後、それを発展させ最後に独自世界を創出)という言葉で表されるように、型には真・善・美を追求する無限の自己革新のプロセスが暗黙のうちに組み込まれている。知識創造は、それが既存の知識に基づいて行われる半面、既存の知識が新しい知の創造を阻害するという矛盾した一面も持つ。優れた型を持つ企業では、事業や技術にこだわり続ける求道精神を持ちながらも柔軟な発想を許す組織文化を持ち、利潤追求と社会貢献といった一見矛盾するような企業行動を両立させている。
 それらの企業に共通するのは、単に型を共有し維持存続させるだけではなく、組織的に錬磨・革新を続け、運動感覚の質を高め続けていることである。それによって過去の成功体験を常に更新しながら、異なる価値を生み出しているのである。
(参照元:日本経済新聞 2005年2月2日 p.29「やさしい経済学-21世紀と資本主義 知識社会と企業 5.対話と実践」 一橋大学教授 野中郁次郎)