〜前略
 技術の発達と習得には、幾つかの段階がある。16-17世紀西欧で起きた科学革命はルネサンス宗教改革に見られる近代的な価値観の一翼を担うものだった。18世紀イングランドでは、宗教的教義から自由でニュートン力学が自然に議論されるような、科学的思考を容認する文化が成立した。しかし、それが産業革命をもたらした技術、例えば蒸気機関の普及に直結したわけではない。
 蒸気機関の綿工業や石炭業への適用、鉄道、蒸気船の登場のためには、抽象的な原理を必ずしも理解しない「町の発明家」による、実に多くの工夫が必要だった。科学と技術がこのような関係にある以上、特許制度が導入された産業革命期の英国で、誰の発明であるかをめぐる争いが絶えなかったのも不思議ではない。
後略〜
(参照元:日本経済新聞 2005年2月15日 p.31 『やさしい経済学-21世紀と資本主義 世界史のヒント 5.技術と情報』大阪大学教授 杉原薫)