20世紀の経験から考えると、19世紀末までの西洋型経路は、経済発展への一つのルートを切り開いたにすぎないように思われる。経済発展へのもう一つのルートは前回描いた東アジア型、すなわち農村に安定的な人口扶養力を形成し、そこから良質の労働力を引き出す経路である。
 そのための初期条件として労働力の質が良いことはもちろん重要だが、それだけではない。人口が増加する過程で同時に教育水準が向上しなければならない。企業でも希少な資本が人的資本に投資されなければならない。さらに、衛生や社会的安全網の整備によって、生活も安定しなければならない。そうすれば、ある程度までは資源の不足や技術の遅れを補えるし、富の偏在も緩和できる。「東アジアの奇跡」が示したのは、経済発展においては「私的所有権ルート」とともに、このような「人的資本ルート」も重要だということであった。
(参照元:日本経済新聞 2005年2月11日 『やさしい経済学-21世紀と資本主義 世界史の
ヒント 4.人的資本ルート』大阪大学教授 杉原薫)