〜前略
 子どもは、たいてい好きな色を持っている。その好きであることに理由はなく、しかし生活のあらゆる局面で、その色が優先される。ピンクが好きな子どもは、傘も靴も筆箱も、みんなピンクだ。それが大人になるに従い、色遣いは時と場合を選ぶようになる。
 だが、イブ・クラインだけは違うのだ。クライン・ブルーと呼ばれる深い青は、恐らく彼にとっての子宮の色だったのではあるまいか。ならば永遠の母性の象徴であるビーナスを、青く染め上げた感性も、何となくは理解できる。
後略〜
(参照元:日本経済新聞 2005年2月16日 p.44 『異界を覗くレンズ十選 2.イブ・クライン「青いヴィーナス」』劇作家 平田オリザ)