何となく小説

インターミッション或いは自己紹介2−5

帰国してからの数年間、高校に上がるまでのことは正直特に思い出したくない思い出で埋まっている。 紫がかった灰色の時代。 より自我の伸長した僕は周りとの差異をより鮮明に感じるようになり、今から思うと今より余程典型的な鬱症状が表出していたのかもし…

インターミッション或いは自己紹介2−4

小学生時代に訪れた一度目の転機は両親によるマイホームの購入だった。これによって僕は異常に圧力の高い個性の持ち主であった祖母から解放され、鍵っ子となり、安寧を得られる孤独により多くの時間浸るようになった。 もう一つ、父の仕事の都合による一年半…

インターミッション或いは自己紹介2−3

僕は小学校に上がるまでの短い期間も決して楽しく過ごしていたわけではなかった。 結果的に社会性は皆無に等しく、身内からも常に身を隠し、同年代の友達など全くいなかった。いや、居たような気もする。なんとなく名前も覚えていない誰かと遊んだ記憶がある…

インターミッション或いは自己紹介2−2

必然的に僕の幼少期の話し相手はテレビになった。かといって僕はさほどテレビが好きだったとも思えない。夏目雅子が三蔵法師を演じた西遊記やNHKの人形劇のいくつか、サンライズ系のロボットアニメの幾つかは覚えているが恐らくどれも最終回を見ていない…

インターミッション或いは自己紹介2−2

時間の無かった両親に代わって僕の面倒を見ていたのは母型の祖父母だった。 といっても庄屋の娘として育ち終生事業欲に取り付かれていた祖母は当時も母親を片腕に経営者としてフルタイムで働いており、主に僕の面倒を見ていたのはその事業全般の経理を任せら…

インターミッション或いは自己紹介2−1

ここまでのカウンセリングの中でもいろいろと僕のことは語られているけど、とりあえず今の段階で必要と思われる部分を既に語られている箇所も含めてまとめておこうと思う。 ただ、この物語りは基本的にカウンセリングを含めた様々な経験を通して「僕」という…

カウンセリング1−8

その日、最後にカウンセラー氏に尋ねられた内容は、 「死にたいと思うことはありますか」 だった。 それは鬱的な傾向にある患者にはテンプレート的に尋ねられる内容かもしれないし、或は本当に自死する可能性の高い人には向けられない言葉かも知れなかったが…

カウンセリング1−7

その場で語った内容については実は結構朧げだ。 ただ、できるだけ焦点となる職場での状況から話しが大きく逸れないように生い立ちの話しや異性関係の話しなど自分を知ってもらう上では重要と思われるような話しも意図的に自分からはしなかったように思う。少…

カウンセリング1−6

そういうこともあり、最初のインタビューはとても1時間では収まらない僕の自分史の叙述に終始する可能性もあった。 とりあえず差し迫った問題である僕の職場におけるアンフィットな状況に辛うじて話題が収斂していったのはなけなしの演算の成果と言えなくも…

カウンセリング1−5

いくつかのペーパーワークが済むと、僕の状況についての質問が投げ掛けられた。 そもそもここに僕を導いた状況は仕事の上での行き詰まりだった。 超絶的に難しい仕事をしているわけでもなく、分不相応な責任を押し付けられているわけでもなく、ただなぜか僕…

カウンセリング1−4

ともあれ、僕のカウンセリングは始まった。 まずは問診票を埋めることから。どんなことについて相談したいか、A4一枚に細かく設けられた項目の半分以上にチェックがついていく。 そう、僕は正直自分の人生にうんざりしていて有り体に言って自分の一切合財…

カウンセリング1−3

カウンセリングを受けに来る人間は大きく分けて2種類存在すると想像できる。 保険診療である精神科医に受診することを頑なに拒んでいる場合。そして、精神科医の診察の診察内容に失望を感じ、別の手だては無いかと模索した結果訪れる場合。 僕は後者だった。…

カウンセリング1-2

初見の人と会う時の過度に繰り返されるシミュレーションは僕の非合理的な習慣の一つだ。何故非合理的かといえば、僕がシミュレーション通りにことが運ぶかどうかということをさして重要視していないからだ。 だいたいが、人と話しはじめたとき自分が何を持っ…

カウンセリング-1

やけに営業的な引き攣った笑顔で僕を迎えたのは一見売れないホストのようなやけに細身を強調したダークなスーツを着こなすでもなく着崩すでもなくどうやって着たらよいのか試行錯誤をしている過程にあるのではないかと思わせる男だった。 おそらく僕よりは1…